2020/6 Opportunities: チャンス-


vastu-sāmye citta-bhedāt tayor vibhaktaḥ panthāḥ (YSⅣ.15)
客体は同一であっても、それを受け止めている心が様々であるから、認識も異なる。(ヨーガ・スートラ4章15番)
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-黄鶴楼-昔人已に 白雲に乗じて去り此の地空しく餘す 黄鶴樓黄鶴一たび去って 復返らず白雲千載 空しく悠悠晴川歴歴たり 漢陽の樹芳艸萋萋たり 鸚鵡洲日は暮れて郷關 何れの処處か是なる煙波江上 人をして憂えしむ

伝説にある仙人はすでに黄色い鶴に乗って飛び去ってしまった。この地にはただ黄鶴楼だけが空しく残っているだけだ。飛び去ってしまったあの黄色い鶴は、二度と戻ってはこない。ただ白い雲だけが、千年を隔てた今もゆったりと浮かんでいるだけである。晴れ渡った長江の向こうには、漢陽の木々がはっきりと見え、中州の鸚鵡洲には春の草木がかぐわしく生い茂る。日が暮れてきた。故郷はどちらの方向だったか。川面を覆う靄が私の憂いをかきたてる。

-崔顥『黄鶴楼』より

Cui Hao(崔顥/さいこう)は、 飲み屋の店主、仙人、黄色い鶴の有名な物語をもとに詩を書いた。伝えられている所によれば、Xin(辛/シン)と言う飲み屋の店主がいた。ある日店に乞食が現れ、酒をくれとせがんできた。店主は彼の貧相な見た目だけで判断せずに、お金も取らずに酒を与えた。乞食はしばらくの間、店に通って酒をせびり続けたが、店主は煩わしさも一切見せずに酒を彼に与え続けた。

ある日乞食は店主に言った。「俺は沢山の借りがある。しかしお前に払う金は持っていない。」そう言うと鞄から橘の皮を取り出して、壁に黄色い鶴を描いた。「客が来たら手を叩いてみろ。鶴が踊り出すだろう」と。店主が手拍子をして歌を歌うと、瞬く間に鶴が壁から飛び出して、音楽と共に踊り出した。店はたちまち踊る鶴がいることで有名になり、多くの人々が珍しい鳥をひと目見ようと訪れた。いつも盛況で店主はとても裕福になった。ある日、乞食が戻ってきたが未だに貧相な服を着ていた。店主は彼に感謝して、残りの人生をここで豊かに生活するよう申し出た。すると乞食は笑って言った。「俺はそんなことのために戻ってきたのではない」そういうと彼は笛を取り出して演奏し始めた。すると空から雲が降りてきて、鶴は雲の方へ向かっていった。乞食は鶴の背中に乗り、空へと飛び去ってしまった。店主は乞食は仙人だったのだと悟り、感謝の気持ちとして鶴が空へと飛び立ったまさに同じ場所に塔を建てた。そこは黄鶴楼と名付けられた。
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乞食と黄色い鶴はいったい誰のことなのだろう?両者は共に部分の総和に勝る。鶴は自然界を、そして乞食は人類を象徴しているとも言える。それぞれが個々に”貧しいもの”と”鳥”というありふれた役割であることは間違いないが、それと同等に不思議でかつ神秘的な偉業をも成し遂げている。乞食と鶴はどうして現れたのだろう?両者は共に”Opportunities(チャンス)”を象徴している。乞食は店主に寛大であること、規則に基づいてジャッジすることあるいはしないことを知るチャンスとして現れた。鶴は人間でありながら鳥になる経験をすべくチャンスとして現れた。物語の終盤で彼らが去っていった時、鶴は私達がいずれ自然界へと消えて行くこと、そして乞食は私達がいずれ不思議な力によって消えてしまうことを象徴していた。黄鶴楼は武漢に位置しており、まさにいま世界で起こっている出来事にぴったりと当てはまっている。

しかし、私達1人1人が乞食をそして鶴をチャンスとして捉えているのだろうか?鳥を使うただの拙い魔術師として見ているだけかもしれないし、彼らだけにメリットがあると捉えるだけかもしれない。私達はよく寛大でいることは他者だけに利益があって、自身には何のメリットもないと感じてしまうものだ。でも本当は、私達が他者のためにしようと思ったことは何でも我々に同等の影響をもたらしている。他者に対して残酷な態度を取ったら、まず私達が自分自身に対して残酷になる。他者を傷つければ、まず最初に自分自身が傷つけられる。ということは、他者に優しくすることができれば、自分自身に対しても優しくできるということでもある。

乞食は確かに一般的な乞食ではなく、魔術師であり、ヨギーでさえあった。鶴は一般的な鶴ではなく、不思議な力を持った踊る霊であり、魔術師のようでもあった。踊る鶴や魔術師の出現、店主が富を築くきっかけとなったのは、寛大さと慈悲深さだった。もし乞食を追い払い疎んでしまっていたら、物語は全く意味のないものになってしまっていただろう。店主の”一般的”という認識を越えた実践のおかげで、私達は数世紀にわたって続く伝説と、変革のための教えを個人的にも国家的にも、そして世界的にも知ることができている。いままさに起こっている世界の変革は、私達から私利私欲を取り除き、不思議で神秘的な力と共に変化する生き方をもたらしてくれている。

-David Life (デイビッド・ライフ)訳: Uzu Yuri